ザ・マインドマップ
トニー・ブザン、バリー・ブザン 『ザ・マインドマップ』 ダイヤモンド社(2006/5)
新版のマインドマップ本です。
カラー印刷なのと、装丁が良いからか
思ったよりすんなりと入っていけるように思います。
脳についての科学的知識から始まり、
実際の書き方、実践の方法と進むので
どの段階にいる方でも役立てることができます。
もちろん、一種のHow to本ですので、
善し悪しは読んだ方それぞれにお任せしますが
以前紹介した本よりもお勧めです。
トニー・ブザン、バリー・ブザン 『ザ・マインドマップ』 ダイヤモンド社(2006/5)
新版のマインドマップ本です。
カラー印刷なのと、装丁が良いからか
思ったよりすんなりと入っていけるように思います。
脳についての科学的知識から始まり、
実際の書き方、実践の方法と進むので
どの段階にいる方でも役立てることができます。
もちろん、一種のHow to本ですので、
善し悪しは読んだ方それぞれにお任せしますが
以前紹介した本よりもお勧めです。
ロバート・M.パーカーJr. 『ボルドー―消費者に贈る世界最良ワインのガイド』 美術出版社
ヴィンテージも含めた詳しい解説付きボルドーワインリスト。
世界的に有名なワイン評論家ロバート・M.パーカーJr.の本で、
著者が最後に試飲した日付とともに評価が付けられています。
全てに目を通しておくことは難しいかもしれませんが、
目を付けた一本を買う前でも、飲むときでも、その評価は参考になるでしょう。
ワイン好きなら必ず手元におきたい一冊。
あだち充謹製のやわらかな冒険活劇。
長男:胡麻、次男:麻次郎、三男:芥子の坊、四男:七味、長女:菜種、五男:陳皮、六男:山椒
の7人の異母兄弟が父親を探す旅に出る。
あだち充独特のほのぼのとした描き方がほほえましい物語。
面白さも健在。
宮部 みゆき 「龍は眠る」 新潮文庫 (2004/3)
2人の超常能力者と出会った記者と、
それにまつわる事件の物語。
よくある超能力者の話に比べれば、
よほど真実味を帯びていて、
これなら実際あってもおかしくないと
思わせられます。
個人的には、
どうせ突き詰めるならもう少しと感じなくもないですが、
本当に超能力を持っていたらこうなのかもしれないと
想像する余地はあります。
また、話として面白いので、
超常能力にこだわらなくても
どんどん読み進められるでしょう。
世の中の不思議を味わいたい方は是非。
それにしても、これが本当の超常能力だとしたら
もって生まれなかったことを幸せに思います。
島 泰三 「親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る」 中公新書(2004/02)
動物、特にサルの手と口は主食によって変化するという説を主張する著者が、
これまで地球上に存在してきたサルの手と口の構造を説明し、
最後に初期人類の主食が何であったかを解き明かす大作。
まさか、人間がそんなものを食べていたとは!
と驚くこと間違いなしです。
最後まで読み進むことができれば。
何せ著者は研究者ですから、
噛み砕いた説明ながらも、論理展開の嵐です。
素人が深く考えながら読むと、
間違いなく途中で挫折してしまうでしょう。
でも、
今この世に生きているサルたちが
何を食べて生きていて、
どんな手の形をしているかを知るだけで
とても面白いと思います。
最初についている手の挿絵だけでも、
相当びっくりさせられます。
好奇心がある方になら、
間違いなくお薦めの本。
著者が歴史小説を書く前の、
史実に関する調査について語った本。
ここまで歩き回って事実を調べ尽くしてから
文章にする姿勢には、
正直、感心させられます。
現存する資料から
事実のみを追求し、
歴史的事件が起こった場所を
ほとんどメートル単位で明らかにして、
やっと小説中の一文にする。
本当にここまで自分の書いたものに
責任を持っている書き手はどれくらいいるのでしょうか。
歴史に興味がない方でも、
是非読んでもらいたい本です。
岩波新書編集部編 「辞書を語る」(2004/2/4)
辞書についての想いを
様々な人が語った、お話集です。
言葉や辞書というものに
愛着を感じている人ならば、
語られている内容に共感を覚えたり、
新たなトリビアを発見することでしょう。
「無人島に持っていく本を一冊選んでください。」
ちょっと、無理そうです。
浅田 次郎 「壬生義士伝(上・下)」 文春文庫 (2004/1)
架空の新撰組隊長吉村貫一郎について、
大正の時代になってから周囲の人間から伝え聞いたという設定で描かれた物語。
浅田次郎と言う人の小説は大変読みやすいので、
(この本は字も大きめだし)
軽快に読み進められます。
南部藩出身という設定のため
方言がややよみづらいということはあったけれど
大変温かみがあって良いと思います。
物語の最後、
貫一郎の息子嘉一郎が父を語る場面などは、
思わず涙がこぼれてしまいほうなほど、
熱い思いが感じられるようでした。
大河ドラマの影響もあって
新撰組ブームの昨今、
読むのにちょうどいいのではないでしょうか。
人の生き様を感じられる一冊。
野依 良治 「人生は意図を超えて ノーベル化学賞への道」 朝日選書(2003/12/12)
ノーベル化学賞を受賞された野依良治博士の著書。
受賞理由となった研究の紹介からノーベル賞授賞式の雰囲気、
さらに対談を通した若い(?)世代へのメッセージなど、
非常に柔らかい語り口で分かりやすく書かれています。
受賞理由となった不斉合成の研究について、
全く科学の知識が無い人でも分かった気にさせてくれる
やさしい解説をしてくれています。
この手の本の中ではかなり読みやすい部類に入ると思いますので、
(特に前半)
一度読んでみてはいかがでしょうか。
ノーベル賞受賞が我ことのように思えてきますよ。
…
さすがにそんなことはないでしょうけれど。
Tony Buzan 著、田中 孝顕 訳「人生に奇跡を起こすノート術―マインド・マップ放射思考」(2003/11)
マインドマップといえばこれ、
と世間で言われているくらいその筋では有名な本。
書き(描き)方の指導からどんな効果があるかまで
詳しく教えてくれます。
さすがに考えた本人が書いた本だけあって、
どう書いたら良いかという説明の部分は分かりやすく、
順に実践していける構成になっていることもあって
一から学ぶのにも適していると思います。
ただ、有名人のマップとか効果の紹介は、
やや食傷気味と言いますか、
アメリカの通販番組に通じるものがあります。
もうちょっと純粋に書いてあっても良いのではないかと、
思ってしまったりするのですが
どうでしょうか。
紙質とか、エディトリアルなところもいいのに
ちょっと残念でした。
でも、おすすめです。
人生に奇跡を起こすノート術―マインド・マップ放射思考Amazonのページです。レビューなどを参考にしてください。
夏目 漱石 「三四郎」 角川文庫(2003/11/27)
九州から上京してきた三四郎を淡々と(であるかのように)描く物語。
解説にもあるように、表向きは
日常の出来事をつらつらと綴っているように見せながら
実はそうではないところが肝である、らしい。
確かに、主人公の心の動きと読者の心の動きが
シンクロしているかのような錯覚を覚えたり、
思い入れてしまったり。
といいながらも、
長い時間をかけて読みすぎたので
最初のほうが頭に残っていなかったりして。
当たり前の話ですが、
繊細なものは特に、
一気通貫、
話を忘れないように読みましょう。
そういうことです。
太宰 治 「斜陽」 新潮文庫(2003/11/11)
『…真の革命のためには、もっと美しい滅亡が必要なのだという悲壮な心情を、没落貴族の家庭を舞台に、最後の貴婦人である母、破滅への衝動を持ちながらも“恋と革命のため”生きようとするかず子、麻薬中毒で破滅してゆく直治、戦後に生きる己れ自身を戯画化した流行作家上原の、四人四様の滅びの姿のうちに描く。』
ということです。
皆が滅びていく姿を追う哀しさというのは、
例えばアニメ映画「蛍の光」のようなやり場の無い苛立ちや怒りであって、
受け取るほうとしては精神的にもすごく消耗するし、
そういう暗い面は受け入れたくないという人もいるのだろうけれど、
やっぱり一度は体験しておいたほうがよいのです。
変な言い方だけれど、“免疫”として。
もしくは、“鍛錬”とか“成長”のために。
興味深い点として、
いまではほとんどの人が知っていそうな単語にも注釈が入っているというのがあって、
これは出版された年によるのだと思うけれど、
なかなか面白いと思いました。
でも、これを本当に知らないで読む人がいるとしたら、
海外文学を辞書を引きながら読むのと同じになってしまう気がしますが。
最初の貴族的言葉遣いはとても上品で、
とても軽く読んでいけるのですが、
徐々に難しい話が増えてきます。
がんばってください。
ビートたけし 「落選確実選挙演説」 新潮文庫(2003/11/4)
「日本をダメにした政治家たち。役立たずの『ニッポン改造計画』。いつまできれいごといってるんだよ!オイラもついに堪忍袋の緒がキレた。…」
主に日本の政治や法律・メディアなど
もっと突っ込んで日本人の悪いステレオタイプのような所を
ざっくりと斬って捨てます。
世の中に巣食う悪いものを…という感じでしょうか。
言いたい放題言っているけれど、
言ってることは間違ってなかったり、
たまに間違っているかもしれないけれど、
それは大いなる皮肉だったり。
でもそれよりも、
ビートたけしという人であるからこそ
知っていることや体験することがあって、
実はそれが一番興味深かったりします。
これを読めば日本のどこが悪いのかが
少しは分かるようになると思います。
正論なのか、逆説なのかはともかくとして。
総選挙が始まる前に薦めるべきだったかな?
坂口 安吾 「白痴」 新潮文庫(2003/11/4)
「白痴の女と火炎の中をのがれ、『生きるための、明日の希望がないから』女を捨てていくはりあいもなく、ただ今朝も太陽の光がそそぐだろうかと考える。…」
解説では、坂口安吾はロマンチスト、センチメンタリストなのだと
説明しています。
しかし、この文章を読んでそう思う人というのは、
全ての日本人の中でどれだけいるのでしょうか?
細かい話はおいておくとして、
主に男女関係にスポットをあてた短編7編が
収められています。
戦時中の題材が多いこともあって
非常にすさんでいるというか哀しみにあふれているというか
やるせないものを感じたりするのですが、
どの話も一番最後に主人公の思いが吐露されているので
読んでいる最中に受けた印象がさらに強まるという寸法になっています。
満員電車に揺られながら読むと
余計に荒んだ気持ちになってくるので、
心に余裕のあるときに読むことをお勧めします。
北村 薫 「スキップ」 新潮文庫(2003/10/24)
『昭和40年の初め。わたし一之瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた…
目覚めたのは桜木真理子42歳。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。私はいったいどうなってしまったのか。…』
「ふたり」に次ぐ不思議現象系のお話。
こんなのってありなのか。
これはハッピーエンドなのだろうか。
いろいろ考えてしまうけれど、あくまで小説という枠の中の話。
実際に…ということは有り得ない、はず。
“将来の自分”に順応するのが早すぎると思いながらも
同じ人物なのだから当たり前といえば当たり前で、
そんなことを考え始めたらもう
作者の思惑にまんまとはまっているわけで。
でも、自分ならやっぱり順序良く時を重ねたいかな。
「さあ、みんなで考えよう!」
芥川 龍之介 「蜘蛛の糸/杜子春」 新潮文庫(2003/10/16)
芥川少年文学の粋を集めた一冊。らしい。
とても読みやすく、含蓄ありそうな短編が集まっている。
蜘蛛の糸があまりにも有名な話なので、
それ以外が薄れて見えてしまうかもしれませんが、
全ての話、いいと思います。
個人的には、
「杜子春」と「蜜柑」がお気に入りです。
杜子春は登場人物、
蜜柑は話のよさ、が理由です。
人間の心の美しさ、でしょうか。
言葉にすると恥ずかしいものですが。
一読に値する、“少年文学”です。
乃南 アサ 「凍える牙」 新潮文庫(2003/10/10)
『…女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。』
手に汗握るサスペンス。
だったかな?
ベテラン刑事と若手(?)女性刑事のやりとりが
いかにもという感じだけれど、
だんだんお互いを認めるようになるところが
救われます。
オオカミ犬も、
“彼”を扱う人間も、
悲しみを秘めた者たちの生き様も描かれています。
サスペンスとしても秀作。
川端 康成 「雪国」 新潮文庫(2003/10/7)
『…冷たいほどに澄んだ島村に心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、哀しくも美しくも描く。川端文学の素質が完全な開花を見せた不朽の名作である。』
「国境の長いトンネルを抜けると、雪国であった。」
の有名な文句で始まる名作。
確かに、名作。
最初から最後まで微妙なバランスをとりながら進んで、
そのまま終わってしまうような印象です。
「お話」ならば、いずれどうにかなるものだけれど
本当ならば、そのままいってしまってもおかしくない。
そこを見事に描ききっているところに
すごさを感じます。
なんて。
涼しいときに読むべきでしょう。
寒いときは、逆にお勧めできないかも。
あくまで想像で雪国をイメージしながら読むことが、
大事な気がするので。
松本 清張 「点と線」 新潮文庫(2003/10/3)
『…列車時刻表を駆使し、リアリスティックな状況設定により、推理小説界にいわゆる“社会派”的な新風をもたらし、空前の推理小説ブームを呼んだ秀作。』
久々の推理小説。
とても読みやすく楽しめる作品になっています。
昭和46年という年を昔だと考えて過ぎてしまったせいで
トリックに気付きませんでしたが、
(これはネタばれになってしまうでしょうか、)
推理小説だからといってトリックを暴こうとしなくとも楽しめるものです。
安心して読めるのもいいところです。
いかにも日本現代の古典的推理小説のような香りがする一冊。
夏目漱石 「こころ」 新潮文庫(2003/10/2)
『親友を尾ら儀って恋人を得たが、親友が自殺したために罪悪感に苦しみ、自らも死を選ぶ孤独な明治の知識人の内面を描いた作品。…夏目漱石後期三部作の終局をなす秀作である。』
ここに本のことを書き始めてから、
一番“深い”と感じたのがこの作品。
自らの欲望に添う形で物事を運んでおきながら、
後でそのことを激しく後悔する。
過去に苦渋を嘗めさせられ、
最も忌み嫌っていたはずだった生き方…。
矛盾する人間のこころが
ありありと、描かれています。
自分までとても罪深い人間だったと
思わされてしまうほどです。
こういう思いをしたことが無い人など、
世の中にいるのでしょうか。
逆に、こういう贖罪の気持ちを全く持たない人は、
個人的には、NGだと思います。
天真爛漫な人も、たまにはこういう一冊を。
宮沢賢治 「注文の多い料理店」 角川文庫(2003/9/30)
『著者の心象として存在したドリームランドとしての日本岩手県(イーハトブ)を舞台とした、スケッチの数々』。
絵のない童話集のような本。
「イーハトブ童話 注文の多い料理店」が正しいらしい。
『注文の多い料理店』のほかにも、『どんぐりと山猫』などの
有名な話が収録されています。
不思議な話の数々だけれど、心休まる話の数々でもあります。
いわずもがなといった感じでしょうか。
大人でも十分楽しめる一冊。
ヘルマン・ヘッセ、高橋 健二訳 「車輪の下」 新潮文庫(2003/9/26)
『ひたむきな自然児であるだけに傷つきやすい少年ハンスは、周囲の人々の期待にこたえようとひたすら勉強に打ち込み、新学校の入学試験に通るが、そこでの生活は少年の心理を踏みにじる規則ずくめなものだった。…』
ヘッセの自伝的小説だそうです。
最初に少年をべた褒めしていますが、
これも自伝的なのでしょうか(笑)。
終わり方は少し意外でしたが、
さすがに描写は細かく繊細なもので、
名作っぽい雰囲気が漂っていました。
もっと前に読んでおくべきだったと思いながら、
少年の立場を客観的に判断し、理解するには
ある程度の年齢が必要だと思われるし、
結局いつ読んだらいいのでしょう???
井田 茂 「異形の惑星 系外惑星形成理論から」 日本放送協会 NHKブックス(2003/9/24)
1995年以降発見された驚きの惑星たちをメインに、科学によって明かされつつある星の全てを詳細に解説する。
まず、最初に言っておくと、
とてもアカデミックで専門的な内容になっています。
高校物理程度の知識はないと、
理解は難しいかもしれません。
その分、中身をわかりやすいように噛み砕いてあるので
わかった気にさせてくれます。
まだまだわかっていない部分がたくさんある分野のようで、
研究者にとってはとても恵まれている分野といっていいでしょう。
不正確な部分もありながら、
それを埋めるために新しい理論を考える楽しさがあります。
きっと。
最後のほう脱落気味だったので、
次回リベンジします。
星空に思いを馳せたい人に。
辻 仁成 「海峡の光」 新潮社 新潮文庫(2003/9/16)
『…廃航迫る青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。…』
第116回芥川賞受賞作。
芥川賞作品にどうこう言っても。
いや、これはあくまで個人の感想なので。
主人公の心の動きのようなものが、手にとるように分かるのは、
やはり優れた文学作品だからなのでしょうか。
仮面をかぶった花井を檻の外から見守る主人公は、
優越感に浸れるはずが、なぜか恐れを抱いてしまう…。
どこか共感できるような気がします。
それにしても、名作には鬱屈した雰囲気が付き物です。
梅森浩一 「クビ!論。」朝日新聞社(2003/9/12)
やり手が語る首の切り方。
私はこうして、クビを切りました。
…
何をっ!
こんなにクビ、クビと
連発していては、今職が無い人には
絶対読めないではないですか(笑)
クビをどう切るかではなく、
そういう事態が起こる原因や、
それにまつわる自衛方法(^^;)を
勉強されていただきました。
クビ切りという名前を冠した
自己啓発本です。
赤川 次郎 「ふたり」 新潮社 新潮文庫(2003/9/11)
『…死んだはずの姉の声が、突然頭の中に聞こえてきたときから、千津子と実加の奇妙な共同生活が始まった…』
軽い気持ちで読み進められるが、実は結構重い話です。
妹の同級生たちに降りかかる不幸にもめげずに生きていく姿が
軽妙なタッチで描かれ…
本当の書評みたいになってしまうのでやめておきます。
不思議な状況を創り出すのが得意な作家のようですが、
まさにこの作品はそれです。
不思議な作品ですね。
甘いものを食べて、塩辛いものを食べて、
甘いものを食べて、塩辛いものを食べて、
と交互にすることは本当に嬉しいことなのか?
と考えたことを思い出しました。
振れる幅と頻度の問題です。
伝わらないだろうなぁ…
『…原爆の広島―罪なき市民が負わねばならなかった未曾有の惨事を直視し、一被爆者と“黒い雨”にうたれただけで原爆症に蝕まれていく姪との忍苦と不安の日常を、無言のいたわりで包みながら、悲劇の実相を人間性の問題として鮮やかに描く。…』
姪の縁談にあたって、
戦時中の日記をまとめるという形での回顧録と、
現在を往復しながら綴られるフィクション。
アメリカでは、いまだに
「ヒロシマとナガサキの犠牲は必要なものだった」
という認識がまかり通っているらしい。
エノラゲイがアメリカで完全復元されたというニュースもあったけれど、
その実現に向けて力を尽くした人たちはきっと事実を知らない。
もしくは、知っていても無視しているのかもしれない。
自分たちの責任を問われることが怖いのだ。
もしくは逃れたいだけなのかもしれない。
しかし、日本人がそれを訴えても、なかなか届かないのかもしれない。
ある種の嫌悪感を引き出すだけで。
きっと日本人が中国や韓国など東アジアの人に抱く感情に似ていると思う。
受け入れるにはあまりに酷い現状だけれど、
忘れてはいけない事実があります。
それをいやというほど認識させてくれます。
また、軍が全てを統制するイメージは、
某国をありありと思い出させます。
何十年か前の日本と同じような国が、
まだこの世界に存在するとは…。
いろいろなことを考えさせられる作品です。
いつか、8月に読んでください。
飯久保 廣嗣 「質問力 論理的に「考える」ためのトレーニング」 日本経済新聞社(2003/9/1)
以前紹介したものとは違い、
こちらの質問力は、論理思考能力の一部として捉えられている。
趣旨は、日本人は二つある質問のうち片方にのみ長けていて、
それによって正しい論理思考が阻害され、
それが様々な場所で大きな弊害となっている…
だから、両方身につけましょう、という話。
論理的思考能力を説くだけあって、
中身も理路整然、という感じがします。
何がどうダメなのか、納得させられてしまいました。
後半は、どうすれば必要な質問力が身につくか、
練習問題を交えながら解説してくれます。
読みながら問題を考えていたら疲れてしまいましたが、
それによって一回り大きくなった自分が…
いるといいけど。
これは誰にでもお勧めしていい本ではないかと思います。
斉藤 孝 「質問力 話し上手はここが違う」 筑摩書房(2003/8/29)
コミュニケーション能力は“質問する力”であるという筆者の主張の基に書かれた技の数々を、「声に出して読みたい日本語」の著者が語ったもの。
対談などの具体例を挙げて、ここがいいと説明してくれるのだが…。
どうもこの手の本はしっくりこない。
“この手の本”とは、自己啓発的な本ということではなくて、
この本のような“書かれ方”の本のこと。
質問力(コミュニケーション力)はこれらの“技”をマスターすれば
よいというような主張が強い気がして、
それはほんとですか?
と突っ込みたくなります。
と、いきなり批判らしきものをしてしまいましたが、
納得させられる部分ももちろんあります。
全てに賛成はできないけれど、
読んでみるのはいいかもしれない、と。
村上 春樹 「アンダーグラウンド」 講談社(2003/8/24)
地下鉄サリン事件の被害者62人へのインタビューを綴ったノンフィクションもの。
事件当日の様子が生々しく描かれている。
■当事者たちは、今までに経験が無いために、
自分がいかに大変な事件に巻き込まれているかを
なかなか認識できない
■被害者は、具合が悪くなっても、とにかく会社に行こうとする
■事件現場でも、その一角以外ではごく普通の時間が流れている
事件の大きさと事件直後の周囲の関心の薄さの対比、
絶対に“ありえない”事件
といったような奇妙さがとても印象に残りました。
マスコミの非常識な対応や、事件の都合のいい解釈、
公的機関の緊急時対応の遅さ、
日本社会全体の制度の不備…。
日本が今歪んでいるということを、
否応無く見せられてしまいます。
読むことでとても暗い気分にさせられるのは確かですが、
こういう本こそ読まなければ。
寝る前には読まないほうがいいかもしれませんが。
事件を風化させないために必要な一冊。
リンドバーグ夫人、吉田 健一 訳「海からの贈物」 新潮社 新潮文庫
『…自分自身を相手に続けた人生に関する対話である。…』
人間が直面しなければならない問題について語られるとあり、
様々な教訓(?)を、貝の名前(種類)に託して語るわけだが
なかなか抽象的でわかりにくいものがあった。
実はすごく深いことを言っているのかもしれないと思いながら
毎日生活している中で、突然そんな哲学的にはなれないとも思うし。
正直なところ、半分も理解できなかったと思うな。
これは“島”で読むべき本なのです。
中坊公平 「中坊公平・私の事件簿」 集英社 集英社新書(2003/8/15)
著者の弁護体験(?)を赤裸々に綴った、というと語弊があるけれど、
体験“談話”集のような本。
詳しい中身を述べているわけではなく、
事件の概要と経過・判決を述べ、
その事件について印象に残った点を付け加えている。
とどのつまり回顧録ですね。
世の中にはヒドイやつがたくさんいるなとか、
この人は努力したんだなとか、
そういう中身を汲み取って自分でいろいろ考えましょう
ということなのかもしれない。
なぜかって、
内容は凄いけれどとても淡々とした文章だから…
すっと、読み終わってしまって。
個人的には、司法試験受ける人には読んでもらいたいけれど。
江國香織 「きらきらひかる」 新潮社 新潮文庫(2003/8/13)
『純粋な恋愛小説。』
どこが???
どろどろの愛憎劇ではないけれど、
とても特殊な状況を描く。
いろいろ、これは絶対困るよなっていう状況だったり、
こういうこと絶対あるよなっていう状況だったり、
変な言い方だけれど説得力のある描写(?)が
読む集中力を高めてくれる。
つまり、引き込まれるということです。
絶望感というよりも、
いろいろ感じさせるような題材を提供してくれる本。
絶対普通じゃないけど。
村上春樹 「蛍・納屋を焼く・その他の短編」 新潮社 新潮文庫(2003/8/11)
とても不思議な7つの短編。後味が良いとか悪いとかではなく、
不思議な話。
『…要するにね、そこに蜜柑があると思いこむんじゃなくて、そこに蜜柑がないことを忘れればいいのよ。それだけ』
『インディアンを見ることができるというのは、インディアンはいないってことです。』
とりとめもないことを言っているような、
何かとても重要なことを言っているような、
文章の雰囲気に加えてこのような“言葉”の数々。
もう少し他の本も読んでみれば、
わかるようになるのかな。
ジュール・ルナール、大久保 洋 訳「にんじん」 講談社 講談社文庫
『赤毛の少年“にんじん”と冷たく頑固な母親との対立を中心に、宿命的な親と子の感情生活の機微を軽妙なタッチで捉える…(以下略)』
これの前に読んだ本に比べれば、とても読みやすく(笑)
どんどん進めていけた。
けれど、文体の割になかなかひどい仕打ちがあって
(これは時代の違いもあるんだろうけど)
気持ちよく読めるというものでもない。
短いエピソードの集まりなので、
そういう意味でとっつきやすい本。
書評って難しい。
アルバート・カミュ、窪田啓作 訳 「異邦人」 新潮社 新潮文庫(2003/8/6)
『…(前略)、通常の論理的な一貫性が失われている男ムルソーを主人公に、不条理の認識を極度に追及したカミュの代表作。』
なんでしょうかこれは。難しくてわかりません(^^;
ぷつぷつと切れる文章、
難解な主人公の心境・行動…。
でも、考えるみると、確かに一貫性を無視した行動を描くのも
難しいだろうなと思ったりして、
そういう意味で作者はすごいかもしれない。
それとも訳のせいかな?
最近まで、物語っていうものは
「(多くの場合最後にある)何か」に向かって
話が進むものだとばかり思っていたけれど、
よく考えてみればそんなことはないのだ。
日常の描写など、
物事の段階を順に踏んでいるわけではなく、
どこが肝だとか肝でないとか言えない作品も多いってことか。
文学って難しい、と改めて認識。
そして、こういう本も書ければノーベル賞がとれると、
こういうわけですね。
※トリビア:「異邦人」の通算出荷数は新潮文庫中第5位を誇る(!)。
小林聡美「東京100発ガール」 幻冬社 幻冬社文庫(2003/8/4)
『三十歳ともなれば、酸いも甘いもかみ分けたクールでイカした大人の女、
のはずが、彼の誕生日に花ドロボーになり、
禁断のエステで新たな快楽に目覚め…以下略』
ようするに結婚直前のエッセイ集ということだが、
夫婦そろって日常生活の恥ずかしいところを
世間の不特定多数の人にさらすということは、
大変珍しいに違いない(笑)。
そして、夫婦そろっての仕事で、
日本人の幸せ度を10%くらいあげているに違いない。
もっとかな。
これはある意味、もっとも幸せな夫婦でもあるということですね。
いずれここに登場する「ありふれた生活」とセットで読むと、
つながりがわかったりして面白いかも。
公衆の面前では読まないことをお勧めします。
笑ってしまうから。
幻冬社
出版元。出版社の中では、他とは違うかなり独自性の濃い経営戦略をとっているらしい。詳しくは知らないです。
鄭 銀淑「馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人」 双葉社 ふたばらいふ新書(2003/8/1)
韓国と日本の文化を様々な面から比較する。この手の本にしては、クセがなく読みやすい部類に入りますよ、この本は。俗っぽい話題も多く、新書にしては砕けた感じ。
日本人に比べて、韓国の人は面子を気にする人が多く、伝統や文化にしたがって生きている…かと思えば整形手術も教育にも熱が入るという、のがこの本の要旨なのかな。
文化が違う国の人と交流することは簡単だけれど、文化が違う国の人とわかりあうことは難しいと思う。わかりあうためには、相手のことをよく知る必要があるし、こういう本の存在はすごくありがたいことなんじゃないかな。なんて。
興味があって面白そうだから、韓国の人と関わる機会があるから、どんな理由にしろ読んで損はないと思います。
テリー・ケイ、兼武 進 訳 「白い犬とワルツを」 新潮社 新潮文庫(2003/7/31)
映画化されており、思った以上に有名だと思われる作品。
妻を亡くした老人の生き様を描く小説で、
小説といいながら半分ノンフィクションらしい。
(半分ノンフィクションという表現はおかしいのかな?)
不思議な白い犬が登場して
老人の心に安らぎを与えてくれるが、
他の人は最初見ることすらできない…。
悲壮感は全然なくて、でもやっぱり寂しい空気は漂っていて、
しかもそれが読んでて嫌にならないところが秀逸。
日記のところがやや読みづらく
せっかくの雰囲気に水を差すようだけれど、
それ以外は○。
毎日何かに追われる人も、
これを読んで何かを考えさせられてみるといいかも。
吉本ばなな 「キッチン」(2003/7/17)
3篇の小説を収めた本。
この人の本は初めて読みましたが、なかなか不思議な読後感。
気楽に読めるとまではいかないけれど、
すんなり読める、そんな感じでした。
登場人物の名前以外に、問題はありませんでしたし(笑)
昔から、読書量はそれなりにあったのですが、
最近めっきり減ってしまいました。
こういうとき、ふと思ってしまうのが
「夏の100冊を毎日1冊読んで、読書家復活!」
復活した試しがありませんが…(^^;